野村克也氏のこと

ノムさんについては、こちらで書いたのでご笑覧していただければ嬉しい。しかし、「偉大すぎる」と賛美する記事や、「感謝しかない」と話すコメントばかり。口うるさいノムさんはきっと、「なんや? すぎる、しか、ばっかりで。少しは頭を使って話さんかい!」と草葉の陰で嘆いているぞ。

 

昔は投手が投げる球種も少なく、ストレートもいまほど速く投げられるピッチャーはいなかった。道具も進化しておらず、頭を使うことは現代と比べれば多くはなかった。野球が戦術的に高度になり、道具が進化すると、プレーヤーの頭脳がそれに合うようにならないと勝てなくなった。その端境期に、まさにノムさんは選手を引退して進路を決めかねていたのだった。

 

本人の努力が一番だが、書物をあさり、格言を書き留め、自分の言葉として置き換える作業がその時期に注目を集めたのだ。うるさい評論家は、広岡を筆頭に多くいた。しかし、ノムさんのように、統計的にデータを収集して独自の理論を編み出した人はいなかった。それには、テレビ朝日の協力が大いに預かっていた。ノムさんも「朝日には世話になった」と述懐しているくらいだ。別にボヤキがノムさんの真骨頂ではない。月見草の話も、本人のリップサービス。頭が良いからこその話題提供だった。ONにはない味である。

 

余談だが、長嶋のチョーさんが浪人時代、たしか久米宏の「ニュースステーション」の海外取材で、フランスのベルサイユ宮殿を訪れたときのこと。ある部屋に備え付けのドレッサーの前に行き、観音開きの扉を空けながら「これが歴代女王が使っていたベッドなんですねえ」と紹介し、大失笑を買ったことがあった。

 

ノムさんには、そんな屈託なさは披露できなかった。しかし、滋味溢れるコメントの数々は、後世に残る。